チョコでロシアンルーレット 冬影様より




「ふぅ…」

2月14日、バレンタインデーの早朝。

冬だというのに真夏の工事現場みたいな格好のシェゾは自宅の前で
実にすがしがしい笑顔を浮かべてさわやかなため息をついた。

その額には汗がにじみ、朝だというのに一仕事終えた雰囲気を醸し出していた。

「これで今日は安心して家に居られるな。」

地面に置いておいたツルハシとスコップを拾い上げ、そのまま家の中に向かう。




ドガン!!




「ぐわっ!!」

不意にシェゾの足元の地面が爆発し、2〜3mほどシェゾを吹き飛ばした。

「自分で自分の仕掛けた罠にかかってりゃ世話ねーぜ……
だが、これなら確実に俺を守ってくれるだろうな。」

妙に自信を持ちつつ、改めて家の周りを見渡してみる。

なるほど、見ればシェゾの家の周り一帯全て掘り返された跡がある。

恐らく周りには先ほどシェゾが自爆した時のような罠がしこたま仕掛けられているのだろう。

「フフフ、仕掛けた本人もヒドい目に遭う罠だ。これなら誰も家に来るまい。」

『絶好調!誰も俺を止めることは出来ない!』と心の中で叫びながらシェゾは心底笑った。

どうでもいいが仕掛け人が回避できないのはかなり情けない話だと気付いているのだろうか。






「思えばこの日だけは絶対にロクな目に遭わなかったな…」

自宅の居間で一息つくとシェゾはここ数年の回想を始めた。




ウィッチや他の女性キャラが自分のところにチョコを持ってきたこと。

そのチョコの異物混入の所為で命を落としかけたこと。

それなのに3倍返しをする羽目になったこと。

しかもそれが数年連続で続いていること。




こうして考えてみると本当に命を落とさなかった分ある意味運が良いのかもしれないが、
シェゾにとっては「ここまで苦痛を味わうくらいなら死んだほうがマシ」とまで思える苦い思い出だった。

「だが、それは去年までの話だ」

本来ならば自分に降りかかるはずであろう不幸を回避できそうな期待が自然とシェゾの顔をほころばせる。

「何のために罠を仕掛けたか…!
俺にとって不幸の象徴以外の何者でもないバレンタインチョコを運んでくる輩を近づけないためだ!
これで食中毒の心配も無ければ3倍返しの心配も無い!!
ウワーッハッハッハ!!!」

嬉しさのあまり壊れまくるシェゾ。自宅だったのがせめてもの幸いか。

丁度その頃、外から爆発音が何発か聞こえてくる。

恐らくシェゾにチョコを渡しに来た婦女子が罠にかかったのだろう。

その音を聞いてシェゾのテンションは急上昇し、ガッツポーズをとるまでに至る。ある意味お宝映像だ。

だが、シェゾは一つの誤算をしていたことにまだ気付いていなかった。






やがて、順調に聞こえてきていた爆発音も止み、女性陣は諦めたかのように思われた。

シェゾはこの瞬間、勝利を確信していた。

「フフフ、この俺に渡しに来れるものなら来てみるがいい!!」

「来てみました。」

「!?」

唐突に聞こえた声の方向を向くと、そこには何時の間にかラッピングされている小さい箱を数個抱えたキキーモラが。

キキーモラは箱をテーブルに置くとシェゾに向かってニッコリと笑いかけた。

「お届け物です。とりあえず数人分の義理チョコです。」

「いらねぇ!受け取り拒否だ!!帰れ!」

出来るわけ無いじゃないですか。黙って受け取って全部食べれば良いんですよ。どうせタダだし。
それともアレですか?ウィッチさんの本命じゃないと受け取らないとか?」

「実はそれこそ遠慮したいんだがそれでこの義理チョコを
受け取らずに済むならそういうことにしておこう。」

「相変わらずお熱いですね〜。そういうことだそうです、ウィッチさん。」

「!?;」

キキーモラの隣にはこれまた何時の間にかウィッチが立っていた。

勿論手には丁寧にラッピングされた箱を持っている。

そういうことだったんですか。わざわざ待っていて下さったとは気付きませんでしたわv
でも、そこまで気を使っていただかなくても義理なら受け取っても結構ですわよ」

「よかったですねv
というわけで皆さんからのチョコも置いておきますね」

「ハメやがったなテメエら!!」

状況は最悪。

さっきまでガッツポーズをとっていたシェゾはさらに自分の考えの浅さを思い知らされることになる。

「くそぉ…大体お前らどうやってここに…あの罠はどうした!?」

「私が数人分の義理チョコを預かってきた時点で想像つきませんか?」

「……まさかあの罠を片っ端から消したんじゃ…」

「他に答えがありますの?」

「…人が苦労して仕掛けた罠をこうもたやすく…」

真相を知らされてげんなりするシェゾにウィッチが言う。

「大体罠を仕掛けるシェゾさんもシェゾさんですわ。
そんなに受け取りたくないなら本人に直接言えばいいじゃありませんの。」

「言ってやめる相手ならとっくにそうしてると思うぞ…」

この後「特にお前な」と言おうとしたが流石にやめておいた。

「まぁそういうわけですので、諦めて受け取ってもらいますからね。
これ、今回義理チョコをくれた人達のリストです。3倍返しよろしく、とのことです。
ちなみに私のも入ってますから。では失礼します。」

言うことだけ言って帰るキキーモラに、怒る気力も消えうせたシェゾは素直にリストを受け取り、ため息を一つ。

「はぁ……」

「なんでそんなに義理チョコが嫌なのですか?」

「……想像つかんか?」

「……」

逆に聞かれたウィッチは少し考える。

「やっぱ、マズいの送ってきたりヘンなモノを混ぜて送ってくる人がいるからですか?」

「ああ。誰とは言わんがな」

ジロリとウィッチを睨み付けるシェゾを見て、流石に身に覚えが無いわけではないらしく一瞬ウィッチは目をそらす。

「わかってますわよ……言わなくても。」

そう言ってウィッチは一歩前に踏み出してシェゾに箱を差し出した。

「だから、これを……」

「…?」

こういう手渡しなら流石に断るわけには行かないので、シェゾは恐る恐る受け取って箱を開ける。

「これは……」

「チョコなら、嫌でしょう?」

ウィッチの箱から出てきたのは何の変哲も無いように見える、木で天使をあしらった首飾りだった。

その胸のあたりには赤い石らしきものがはめ込まれている。

「お前が作ったのか?」

「…はい。」

「へぇ……」

よく見るとウィッチの手にはあちこちばんそうこうが張ってあった。

意外だったのか、シェゾは天使の首飾りを裏返したり装飾を細かくチェックする。

チェックが終わると、おもむろにそれをつけてみた。

「…どうですか?」

「……少しヤスリがけが甘い。石も加工がまだ甘いな。面だった華やかさも無い。」

「……やっぱり、ヘタでしたね」

少し涙を浮かべながらウィッチは苦笑した。

こんなもので喜んでもらえるとは思ってなかったけど、やはり少しは悲しい。

「だが悪くない。お前らしくていい作品だ。闇の魔導師が天使のアクセサリーとはミスマッチだが、
お守り代わりに使わせてもらうぜ。」

そう言ってシェゾはウィッチの頭を優しく撫でた。

「……ありがとよ。」

久しぶりにシェゾが見せたやさしい笑顔だった。







だが、実はこの首飾りにはめ込まれてる石らしきものはが高純度で熱に弱い超強力火薬だったので
シェゾの家が粉微塵になるのは3日ほど後である。

この後例によって3度の火傷を負い、ウィッチに介抱されるのだがそれは別の話。

「少しでもお前を信じた俺が馬鹿だった……」

「まぁまぁ、今回は過失ですから…」

「つーことは今までのは故意にやったことなんだな?」

「え、いや、そ、そういうわけじゃなくて…;」

「やかましい。治ったら真っ先にお仕置きしてやるからな。覚悟しとけ…イテテテ」



終わり






わくぷよのキキモラさんは、アイテムやワナを片っ端から消してしまうのですよね。
ゲーム中では何気なく登場しますが、よく考えてみるとトンデモない特技です。

シェゾに欠点を指摘されちゃってますが、木彫りで天使を表現できるウィッチって
実はすごく器用かも…。

壁紙配布元…幻影素材工房(閉鎖)