女神の子




 神殿の町――カダス。この地方で最も大きな神殿は、そのまま町の代名詞となっている。

 小高い丘の脇を少女がひとり小走りに駆けてゆく。

 ラウラは毎日、神殿へ通う。信心深い少女であった。

「おはよう、オネストさん」

 門の隣の影に声を掛ける。名はオネスト。神官見習いである。彼は掃除の最中だった。

「おはよう。今日は早いねラウラ」

「うん、なんだか眼が覚めちゃって」

 少女は神殿内へ進む。平和への感謝と、加護を願いに。









「起きた?お兄ちゃん」

「……」

「お兄ちゃん、寝付きはいいけどなかなか起きないものね」

 ラウラは部屋の中をパタパタと走り回り、カーテンを束ね窓を開けて空気を入れ替える。

「朝ごはん作るから、手伝って。ほら!」

 まだベッドの中にいたレニスの腕を思い切り引っ張る。朝が苦手なレニスは、朝早くから元気なものだと思う。

 だが、無理に明るく振舞っているのも解っていた。





   たったひとりの家族が、戦争へ赴く。







 それは、彼女にとって何を意味するのだろう。

 レニスは昨日、街の友人たちと共に戦争に参加する事を決意した。

 思い切った決断だったが、自分たちの国を守りたいと考え、そのために力を貸したい。

 大人たちは哀れみの視線を向けるが、しかし誰かが動かなければどうしようもない。若者らしい考えだ。



 だが、ラウラは。

 レニスが去れば、この家にはラウラひとりが残ることになる。

 守ってやれないばかりか、危険の真っ只中に置き去りにするような…そんな感覚さえあった。





「お兄ちゃん、起きたなら早く来てよ!」

 ラウラの声で思考を断ち切った。考えても詮の無いことだから。







》NEXT
(04.01.04)


もともと短い話をぶつ切りにしただけですので、
長くは続きません。

小説もどきはもうほとんど書けませんが、
昔のデータを引っ張り出してパッチワークしました。

稚拙な文章で伝えたいのはラウラへの愛。
この兄妹がDFで最も好きです。