哥鞍・4

 ストローメアが手当てを受け始めたと同時に哥鞍は自室に戻ってしまった。
 命に別状はないと言われたが、何となく心配なのでチョップと一緒に手当てが終わるのを待っている。
「哥鞍さん、かえっちゃったね」
「う〜ん。自分はいない方がいいだろうって言ってたよ」
「へ?」
「哥鞍がいない方がストローメアは安心するんだってさ」
「それ、哥鞍さんが自分で言ってたの?」
「うん」
「チョップ、ひょっとしてしつこく聞いたりしなかった…?」
「した。だって気になったから」
 哥鞍も、チョップがこうして話していることなんて考えていないだろう。こんなこと、子供に教えるべきことではない。心の荒んでしまった者だけが知ればよいことなのだ。
 …それを。
「チョップ」
「なに〜?」
「哥鞍さんて。実は『いい人』?」
「…??よく解んないけど、多分」
「ほんと?」
「傭兵団に入る前の話してくれたり、弓を直すの手伝ってくれたりするよ」
 自分が嫌われているとわかっていて、その上で。
「お話、楽しい?」
「うんっ。山ごもりの最中に蜂の大群にあった話とか、夜、屋根の上を走ってたら同じ格好したひとにあった話とか、色々話してくれるよ」
 彼は、彼なりに気を使っているのだろう。
「ホロウィーも、哥鞍きらいなの?」
 やりにくいこときまわりない、パーティのメンバー。
「嫌い、じゃなくなった…かな」
「じゃあ、前はきらいだったの?」
「うーーん……」
「ホロウィ〜〜」
 ストローメアを助けたのが彼だと知ったら、彼女はきっと驚くだろう。想像して、思わず笑ってしまった。
「そういえば、チョップ。哥鞍がストローメアを連れて帰ってきたとき、チョップは哥鞍を迎えに走っていったよね?」
「?うん」
「でも、哥鞍とは僕の方が先に会ったようなんだけど」
「ああ、あのことか。アッシュが、アメくれたから」
「へ…」
「アメくれたから、食べてから来たんだ」
「…」
 ──今度哥鞍にあったら、チョップが誘拐されないように注意しておこう。


 ストローメアの見舞いに行ったホロウィーは、さっそく質問責めにあっていた。
 ベッドの中で安静中だというのによくしゃべる。
「哥鞍の奴、私が気絶している間に何か変なコトしてないわよね?!」
「し、知らないよ。でも、失礼じゃないか、助けてもらったのに」
 任務から帰る途中、ドラゴンに出くわしてしまったストローメアは、苦戦しているところを哥鞍に助け出された。チョップづたいに聞いた哥鞍の話だと、助けに入った時、すでに彼女は傷だらけで意識は朦朧としていたという。
 そして彼女はありがたくも二週間の絶対安静を言い渡された。復帰まで後一週間。「大分良くなったから」と自分の部屋に帰ったものの、安静を言われているので何もすることがない。毎度ながら、光栄にもホロウィーが暇つぶしの話し相手に選ばれた。
「僕なんか呼び出して、一体何を話すかと思えば…」
 何故自分が毎回毎回つきあわされなければならないのか。何故他のひとを呼ばない、自分はもううんざりだ!──その理由は、彼のうまく言いくるめられやすい性格にあることを、当人はまだはっきりと自覚していない。
「私は助けてなんて頼んでいないわ。よけいなお世話なのよ。あんな奴に体を触られたと思うと虫酸が走るわ」
「…ちょっと言い過ぎだと思うよ…」
 一通り言いたいことは言い終わったようで、ストローメアはため息を付いた。
 部屋の中に暫しの静寂が流れる。
 風が木々の間を走り抜け、窓から部屋へ入ってくる。鳥の囀る声も一緒に聞こえてきた。そして、木々のこすれ合う音。
「…たまには」
「え、何?」
「たまには……怪我もしてみるものいいわねぇ…」
 ストローメアはとろんとした眼で窓の外を眺めている。
 確かに、ライバルと競い合うばかりの生活では神経が保つはずもない。悪くない休暇のようだ。
 たまには、仕事のことも傭兵という職業のこともすべて忘れて…。
「哥鞍ってさあ…」
 口調まで、だんだん眠そうになってきた。
「冷酷非情な人間じゃなかったのね…」
「そうみたいだけど…」
「ひょっとして、人間が苦手なだけなのかしら?…」
「…そうかもしれないね。チョップとは普通に話してるみたいだし」
「考えてみれば…チョップも変わった奴よね…」
「う〜ん……」
 ストローメアは、少しの間だけ考えるそぶりをして、そのまま寝入ってしまった。その上に、柔らかな陽射しが降り注ぐ。
 ホロウィーはストローメアがすっかり寝てしまったのを確認すると、また話し相手にさせられないうちに、と静かに部屋を出ていった。
 一週間後、傭兵生活に帰る。


 かなり前に書きあがっていたものです。
 初の小説…?なのかどうか解らないシロモノ。
 前の(シェウィのラブコメ…人を呪わば〜のこと)はギャグだったし…。
 哥鞍の過去の話とベクターのホクロの話は公式設定じゃありません、念のため。
 チョップと哥鞍の自己設定を書き表したくて書きました。
 全然、書き現れてませんが…。うう、文才、無いの…。
02.11.05以前…正確な日時不明
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