哥鞍・3

 ほとんどのワーキャットを退治し、城へ帰ろうとすると哥鞍が声をかけてきた。
「確か…こちらの道だったと思うが」
「あ、すみません!ありがとうございます、哥鞍さん」
 メンバーの先頭に立って行動するのはリーダーの仕事。しかし、道に迷わないよう注意しているのは盗賊の仕事なのだ。
「哥鞍さん、記憶力が良いんですね」
「大したことではない」
 ────会話終了。しーんと静まるのが苦手で頑張っているのに、なんだ、この手応えの無さは。
 一応、受け答えはしてくれるだけ、まあ良いのかもしれない。僧侶のクロウなんて、なにか尋ねない限りは何も言わない。尋ねても返事をしないことさえある。
 クロウが「性格に問題有り」なら、哥鞍は「外見に問題有り」だな。そんなことを思いながら、城へ急ぐ。
 早く、この無意味に気まずい雰囲気が無くなれば、と思いながら。


 任務から帰っての休息。ホロウィーはいつものようにチョップの話につきあっていた。
「でね、ベクターの右の眉の上には、ちいさいホクロがあるんだよ!このあいだみつけたんだ」
「よく、そんなところを気が付くね」
「うん、オイラ、盗賊だからね」
 へへへ、と可愛らしい笑みを浮かべる。話しているのが、誉められるのが嬉しくてたまらないという、「子供らしい」素直な笑みだ。
 このチョップというホビットの少年は、ホロウィーが安心してはなせる唯一の話し相手となっていた。クセの強い傭兵団の中には、何を考えているか見当も付かないのが多く、気が弱いため立場も強くないホロウィーは、まともに話せる相手すらいなかった。
 子供は良い。子供は素直だ。話していると心を和ませてくれる…。
 青年のくせに、思考回路がジジくさい。少し、寂しい…。
「でねぇ、王座に続くじゅうたんには、実は一カ所しみが付いているんだよ」
「え、…えぇ?」
「ほんとだよ!ウソだと思うなら、今度確かめてみたら?」
 一体どういう視力の持ち主なのだろう。──それはいいのだが。
「ホロウィー、今日ね…」
 「子供」でも判らないことはある。
「今日ね、哥鞍が任務から帰ったら秘密の場所を教えてもらうんだ〜」
 ──これだ。
 傭兵のメンバーで最年少のチョップは何故か哥鞍と普通に話す。怪しいという概念がないようだ。それどころか他のメンバーが過鞍を敬遠していることさえ気にしていない。…いや、気づいていないだけなのかもしれないが。
 そのこともあって、哥鞍とチョップは実は同室だったりする。一体何を話しているのやら想像が付かない。チョップは楽しそうなのだが。
「あ、哥鞍が帰ってきた!」
 いくらホロウィーが全身の五感を働かせても、気配の一つも感じない。
「何でわかるの…足音でも聞こえた?」
「ううん。哥鞍のにおいがする」
 …動物か?
「ぼ、僕にはさっぱり判らないんだけど…」
「あたりまえだよ。哥鞍、いつも気配消してるもん」
「城の中では消さなくて良いと思うんだけど…」
「気配消した方が落ち着くんだってさ。…あれ、もうひとり一緒に来る」
「え?」
 哥鞍と一緒に。任務以外でそんなことをする人間はチョップしかいないはずだ。
「哥鞍はひとりでどこかへ行ったはずだよ」
「でも、哥鞍ともうひとり誰かいるよ。属性ちがうヤツだからよくわかんないなあ。たしか、ぎゃんぎゃんうるさいヤツだったと思うけど」
 そう言って、一瞬考えた後、
「迎えに行って来るよ!」
 上着をひっつかんで、扉も閉めずに部屋から出て行ってしまった。
 子供というのは、元気がよい。…そしてそそっかしい。
「…」
 ぽつん。
 そういえば、ここは哥鞍の部屋だ。もうじき帰ってくる。帰ってくる前に出ていかなければ。
 いつになったら哥鞍と組まなくて済むようになるのだろう。戦争が終わるまではやはり無理か…。
 ホロウィーは自室に帰るべく腰を上げた。
 廊下から足音が聞こえてくる。
「ホロウィー殿。医務室は何処にあるのか教えてくれまいか?」
 いきなり声をかけられた。そこにはよく見知った全身黒ずくめの盗賊と、その腕に抱きかかえられている傷だらけの少女の姿があった。
「ストローメア!哥鞍さん、一体何が…」
「詳しいことは後で話す。今は、怪我の処置を優先すべきだ」
「そうですね、えっと、医務室…」
「医務室ならオイラが知ってるよ!ついてきて!」

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