義賊ってヤツ


アタイだって、こんな事態、予想していなかったわけじゃない。
義賊の仕事だって、やり始めてから、結構経つんだ。…いや、やらされた、と言うべきか。
 とにかく、予想はできていたんだ。「義賊」がやるべき仕事だ、っていうのも解ってた。
 でも、…「よく」なったのか?悪い人間を退治した…イコール「よく」なったと言えないのは、幼い子供が見たって明らかだ。
 一体どうすりゃよかったんだ?難しいな「義賊」ってのも。



 少しかび臭い、古い空き家。窓ガラスなんて割れまくりで、壁もヒビだらけ。すきま風が寒くてしょうがない、誰も寄りつかないアタイの聖域。盗賊って奴は、薄暗いところが好きだっていうのがサガらしい。
 このボロい空き家(ほったて小屋)は、以前この街にいた悪徳商人を退治するときにちょっくら宿代わりにさせてもらった。何となく気に入ったから、アタイはしょっちゅうこの空き家に来てる。特に何をするわけでもない、ぼーっとしたり、昼寝したり、盗賊だった頃を思い出したりしている。
 ―──あのころは、楽しく盗賊やってたよなぁ。
 盗む物にも困らない、どんなモノにも束縛されない。列車強盗やってた時なんて、最高だったな。部下の配置とか、色々計画たてたり…。あのころは子分も多かったな。五十人…もっといたっけ?部隊組めたほどだもんな。今じゃ、三十人だもんな…。
 よく考えりゃ、今から盗賊再開したって良いんだよな。ファーリンとかを敵に回すだけなんだから。
 よけいに訳が分からなくなってきた。何をアタイは律儀に義賊を続けているんだ?義賊なんて、金のやりくりに悩む毎日なのに。
……とか何とか考えていたら、不吉な会話が耳をよぎった。
「いやー、びっくりしたよ、見たかい?さっきの男。一体、あんな細い体のどこに入るんだかねぇ」
「まったくだよ。菜食定食なんて一人分でもけっこうな量なのに、六十人前だよ、信じられねえな」
「おまけに、あの酒の量!素晴らしいザルっぷりだね。普通の魔術師か賢者のようにしか見えないのに…」
 小学校の劇みたいにキーワードをつらつらと並べ、アタイの体温を奪っていく。
 これだけ条件がそろえば、もうアイツしかいない。アイツだったからって別にどうこう困ることはないんだけどさ。
 何となく会いたくないな。でも、アイツのことだからいつものパターンで「おや、アリババさん。お久しぶりですね」とか言いながら現れるんだろうね。嫌だなぁ…。
 それとも、こんな所にアタイがいるなんて、普通気が付かないから…
「あ、アリババさんじゃないですか。お久しぶりですね。」
 …ささやかな期待を生まれた直後につぶさないでくれ。
「やっぱりあんたか、ペトゥム。村人のうわさ話が聞こえたぞ。飯は一食五十人前までに押さえる、っていってなかったっけ?」  
ペトゥムは、冷や汗を流し、
「あ、ばれちゃいましたか。菜食料理っておなか空きますから。別な料理を注文しようと思ったんですけど、バラバラに頼むと店員さんに迷惑がかかると思ったもので」
 …料理の種類とか、最早そう言う問題じゃない気もするが。
「それよりペトゥム、こんなへんぴな村へ何しに来たんだ?アタイにはおいしい酒も料理も魔法のアイテムもないように見えるんだけど」 
「あれ、知らないんですか、アリババさん。あまり有名じゃありませんから知らなくても無理はないですが」
「知らないって、何が」
「ここの菜食料理はおいしいんですよ。素朴な味で、私はなかなか好みですね」
  「何?!ペトゥム、てめぇあたいより先に食いやがったな!」
 ぐわし!
何だかよくわからない効果音を付けて、アタイはペトゥムの胸ぐらをつかんだ。
「ちょ、ちょっとまって下さい。アリババさんだって、食べに行けばいいじゃないですか」
「お前が先に食べたってのがむかつくんだよ、ムショーに」
「ひどいですねえ」
「お前が相手だから仕方がないと思ってくれ」
「そこをなんとか」
「…。どーでもいいや、もう」
 そしてアタイはため息をひとつ。
 紹介が送れちゃったけど、この手品師(魔法使い)の名前はペトゥム。豪酒・豪食・愛煙家、ついでにサギ・ペテン師。ダンジョンとかに連れていくととても使える奴だ。はい紹介おわり。
「そういえば、アジトの再建の調子はどうですか?」
「うーん、まあまあってとこだな。まあーったく。アジトの建て直しなんて、今まで無かったし、これからもないだろうな」
「がんばってくださいね」
「ああ。……ってアジトが食い尽くされたの、半分はオマエのせいだろう?!」
「うわぁ、落ち着いてくださいっ」 ペトゥムはいきなり胸ぐらつかんだアタイに驚いている。必死に抵抗してるけど、盗賊と魔術師の力の差なんて歴然としたもんだ。
 そう。「岩喰い」を連れてくる原因を作ったのは、アタイとコイツがやったあるダンジョンの探索のせいだ。
 その探索で、アタイ(とペトゥム)は正体不明のたまごを見つけた。正体が解らずとりあえず持ち帰ったのだが… 
 なんと、それは岩を喰って成長・増殖する生き物「岩喰い(そのまんまな名前だな)」のたまごだったのだ。アタイはペトゥムを無理矢理戦わせた。もちろんアタイも一緒に戦ったさ。アタイのアジトを喰うヤツを野放しにしておけないからね。
「そう言えば、あのダンジョンで、金になる物全部持ってったよな?!猫の生首とかいうわけ解らん物まで持ってきやがったが。義賊、ってのは金との戦闘なんだよ解ってるのか?!」
「アリババさん生首じゃなくて干し首です」
「う、うるさいな!アタイは魔法なんて怪しい物は使わねぇんだーっ!!」
 ペトゥムは観念したらしく、暴れるのを止めた。
「アリババさん」
「何だ!?」アタイは興奮したまま。
ペトゥムは、諭したように一言。
「どんなに叫んだって、自業自得は自業自得のままですよ」
「……………。」
 ……気が付きたくなかったけど、そう。
 アタイはひざをつき、ガックリと肩を落とした。
 本気で失敗ばかりやらかしてないか?アタイは。
 ースマッシュ・キリ・ペトゥム(ついでにファーリン)に負けて、義賊になった。
 ー岩喰いにアジトをごちそうしてしまった。
 ーせっかく盗んだ大金をウハウハ盗賊団総統に横取りされた(ついでに使い込まれた)。
 ーそして…何よりも。
「……?…どうかしましたか?」
肩を落としたまま動かないアタイを不思議がって、ペトゥムが声を掛けてきた。でも、今のアタイにはそれどころの話じゃない。
だって。
…全部アタイのせいじゃないか。
「……アリババさん?」
「…………うるせぇ」
 こんなアタイを見たことがないのだろう。アタイだって、こんなに落ち込んだのは初めてだ。
 このままで、いいのだろうか。
 知らない。
 知らない、そんなこと…。
「アタイは、義賊には不向きかもしれないな…」
「へぇ…そうなんですか?」
 以前、この村には法外の金を請求する物売りがいた。村人は、…それほど困っていなかったのかもしれない。
 それを退治したのが、ひとりの義賊…アタイだった。
 果たして悪徳商人は処分され…村には、誰も寄りつかなくなった。
 旅に必須とされる回復アイテムを扱っていたのはその店だけだったからだ。
 大体を農業で生計を立てている小さな村だが、旅人が来なくなると…急速にさびれていった。
 それが、この村。
「……帰る」
「おや、帰ってしまうんですか。アリババさん、一体なにしにきたんです?」
 別に、なにも。強いて言うならば、自分の失敗を、まっすぐ見つめて、確かめるため。でも、そうしたところで何も変わらない。
 それとも、失敗を償う?どうやって?
「あっ、おししょーさまっ!」
 師匠?
 子供が、息を切らして駆けてきた。思春期まであと少しの子供だ。
「別に用事なんてないんでしょう?ちょっと待ってください」
 子供の身に着けているマントのほこりを払い、アタイヘ向き直らせる。
「私の弟子です」
 …へぇ。
 だから何?
 『お師匠さま』に紹介されるのがうれしいのか、にこにこと誇らしげに胸など張ってみせる。
「この子…一度、猫鬼(ビョウキ)に襲われたことあるんですよねー」
 ・・・は?
 なんだいきなり?
「血は止まらない、回復魔法も大して効果なし、けっこうまずい状況だったんですけどー」
 そのときのことでも思い出したのだろうか。ペトゥムの弟子、なんか青ざめてるけど…いいのか?
 愛弟子の様子などたいして気にせず話を続ける。…少しは気にしろよ。
「なんとかなったわけで。私のところに弟子入りしたんですよ」
 ペトゥムがアタイを見上げた。前髪が揺れ、滅多に光を浴びない瞳が覗く。
「人間って」
 こいつの目は、アタイのニガテなんだ。
「けっこうたくましいものですね」
 わかってるけど。敵わない、コイツには。
「アリババさんのところの子分さんたちも人の集まりですから」
「いい」
「え」
「もういいペトゥム」
 礼なんて言わないし、動作や物で表そうとも思わないけど。
「アタイはけっこう忙しいんだ。もうアジトに帰る」
「さっきまで昼寝してた人が『忙しい』んですか?」
「う、うるさいなっ!休憩中だったんだ!!お前がわけのわからんことで引き止めるから時間食っちゃったんだよっっ」
 そうして(今度こそ本当に)回れ右をする。
「お元気で、アリババさん」
「お前も元気で、なっ!」
 見えないけど、アタイの後ろで、アイツはやっぱりにこにこ笑っているんだろう。
 これからもずっと、なにがあっても、きっとそうしているんだろうよ?
 なあ、ペトゥム。



 …ひとは生きることに貪欲だから。
 きっと再生していく。
 アタイもみんなも。




 仲間が待ってる。
 さて、アジトの再建がんばらないとな!







幻世キャラってみんな元気がいいのね。普通の世界じゃありえないことを言い切れてしまふ。

ぢつはあんまり出したくなかったこのハナシ。
ただ、これ以上あげないでいると見せたくなくなってくるのであげました。
まだまだ直したいけど、うーん…。
とにかくアリババが大好きだー!!
同意者&感想お待ちしております。
01.03.12

壁紙はアラブ風素材集様よりお借りしました。