ゆきうさぎいつものように起きて、いつものように見送って。そしてまたいつものように寝…昨夜降り積もった雪が眩しい。黄色のツンツン頭と共に出かけて行く黒髪が、雪によく映えていた。 いつも陣取っていた明かり取りの窓際は、まぶしすぎて寝られない。昨日まではうす暗い空ばかりだったのだが。 さてどこに移ろうか。 「おーい、びんせんと〜っだっけ?」 気が付くと、すぐそばに防寒具を着込んだショートカットの少女が立っていた。 雪の乱反射が少女の髪に映る。栗色とはこういうのをいうのだろうか。 「あんたさあ、すっごくヒマでしょ?」 「…確かにすることは特にないが」 少女が背伸びをしているのがちらりと見えた。それでも身長差のせいで顔を確かめるのに首が辛い。 どうせ顔など確認する必要もないのだが。ツンツン頭の同行者の中にこんな少女が、確かいたような気がする。おそらくそうなのだろうが。 そういえば、この少女、名はなんといっただろうか。 「どっか行かない? あんたが人混みとかキライなのは、一応ショーチの上、のつもりだけど。そんなとこ行かないし。ってゆーかこの辺はそんなとこないけどね」 窓の外へ目をやると、チョコボ頭達の足跡は消えかかっていた。 「…話聞いてんの?!」 「…そんなに大きな声を出さなくても、聞こえている」 「──ったくもう!このアタシ、ユフィちゃんが誘ってやってる、っていうのにさあ」 ああ、そうか。ユフィ、と言ったか。 「はいはいっ!もー暗い暗い!外行くよ、そとっっ」 私に声をかけるなど…確かに相当暇なようだが。しかし。 「私は外に用事はないのだが」 「ねちねちくどくどうるさいなあっ早く準備してよ。ちやんと厚着していかないと、寒いよ…あ、そうだ。」 ポケットのなかをごそごそと探り始める。 「そーいうヤツにはこれ!」 ユフィはいきなりツカツカとこちらに歩いてきた。 ──────バサァッ! 「なにを…………ん?」 マントがめくられた後、背中に何か異物を感じた。 「カイロ貼ったの。コレなら寒くないハズだから」 そして私の腕をつかんで、満面の笑顔。 ここの人間では珍しい、無邪気な笑顔でなにを言ってくれるのかと期待したら。 「ほら、つべこべ言わないで、ユフィちゃんについて来な!」 「何処まで行くんだ、ユフィ…」 人混みでないのは良いとして、 「ほら、もうちょっと!頂上が見えてきたから」 …雪山もどうかと思う。 「アンタが人混みキライだって顔してたから、こんな所を選んだんだよ?」 「…頼んだ覚えはないのだが」 「かわいくないなー、ホント」 ユフィはほとんど飛び跳ねながら歩いている。帽子の飾りが、ウサギの耳のように揺れている。 本当に、若者というのは元気なものだ。 少女のエネルギーは、どこから湧いてくるのだろう。 「!」 突然視界が真っ白になった…と思ったらみごとユフィに転ばされていたらしい。 「ひゃははっ!ひっかかったね元タークス!」 楽しくてたまらないと言う表情。何年ぶりに見ただろうか。 不思議と、嫌ではなかった。 上半身を起こして、体の雪を払ったところで、ユフィがすぐ横に倒れ込んできた。また雪がついてしまった。 「きもちいい〜」 ユフィは雪に頬ずりしている。冷たくないのだろうか。 「…楽しいのか?」 「楽しまなきゃ、楽しくないよっ」 あまりに激しく足をばたつかせるので、白のコートが大きく揺れる。 真っ白な雪ウサギは、しばらく雪とじゃれあっていた。 「ほら、着いたよ!」 マントが木の枝に引っかかったり、ユフィが雪の吹き溜まりにはまってしまったりとアクシデントが絶えなかったが、ようやく着いたらしい。 「視界、5メートルも無いぞ」 「あれぇ…?」 山の天候は変わりやすい。山頂は確かに一面真っ白(視界が)。 「…ごめん」 いつもとは違う、暗く沈んだ声。 元気に跳ねていた帽子のみみがだらりと垂れていた。 「ちょっとね。甘く見てたみたい、雪山。ホントにゴメン」 「……ほう。お前でも謝ることがあるのか」 「なんだよ、それ。どういう意味よ!!!」 「そのままの意味だ」 「あぁもう、謝ったアタシが馬鹿だったよ!」 「そうなのか?」 「いちいちむかつく男だね〜。アタシが謝るなんて、10年に一度くらいだっていうのにさ」 「やはりそうか。では生まれて二回目の貴重な反省を頂いてしまったかな」 「あーあーヤなヤツだよ、アンタは!…あ」 「ん?」 「…雪、やんできたみたい」 気付けば視界が開けていた。 「こっち!コレを見て欲しかったの」 ユフィが私の手を強引に引っ張る。 木々の間を走り抜け、崖っぷちに立たされた。 「………………ここから飛び降りろと?」 「……。アンタが死んだって、アタシには何のトクにもならないよ。そーじゃなくて、見て欲しいのは景色!」 遠くに連なる山脈、眼下には小さな集落。そのすべてが白に染められている。 世界の何分の一もない景色。何倍も広い、星。 星は、決して狭くはない。 むしろ自分には広すぎるくらい。 ──この景色でさえ。 「なんか、さ。大きいんだよ」 ユフィはぽつりと話し出す。 「大きいんだ、 すっごく。 …で、ね。なんかこう… ………どーでもよくなってきちゃうんだよね。 メテオだ、神羅だ、って。そういうの、全部が」 「それは、」 「わかってる。クラウド達の前では、冗談めかしてるよ」 冗談めかしているつもりだったのか、あれは。 「でもさー。クラウド達だってさ。ねんがら年中、同じことしか考えてないワケじゃないと思うよ?」 まだまだ幼い少女は、得意げな顔になった。 「一つのことばっかり考えてたら、誰だって疲れるのは当たり前。…だと思うけど?」 思わずハッとなってしまった。 その私の顔を見て、得意満面のユフィは満足したようだったが。 「人生、カルく生きるんだったらアタシの方が上だね。先輩を見習いなさい?」 ユフィは歯を見せて笑っていた。 強引に連れてこられた雪山登山だったが… わざわざ私をここまで連れてくるために誘ったのか? 「アタシはね、なんかイヤなことがあると高いところに登るんだ」 「何とかと煙は高い所が」 「マジに蹴落とすよアンタ」 「……」 近くに生えていたナナカマドの実が、やけに綺麗に見えた。 「ユフィもヴィンセントも、二人そろって風邪?」 「…うー、さむいよ〜」 「………」 下山の途中、真面目に雪合戦してしまい、全身塗れたまま帰ってきたからだろう。ユフィが私に向かって雪玉を投げた所までは良かったが、その後笑えないトラップを仕掛けられたりして真剣になってしまい…今に至る。 私もユフィも毛布を被り、ストーブで暖まっている。 ティファが曰わく有りげ、とでも言いたいかのような視線でこちらを見ているが、…これも気にしないことにしよう。 「今日はユフィとヴィンセントのレベル上げやろうと思ってたけど…風邪なら他のヤツにするか」 チョコボ頭は特に興味がないようだった。「雪遊びして風邪をひきました」など、とても言えないので好都合だったが。 クラウドが今日のパーティを決めに出ていった後、ティファはこの部屋に残った。ずっと視線が同じままだ。…苦手だ、この女。 「ふーん。おめでとーユフィ」 「な、なにいってんのティファ!」 「心配しなくても、すぐにこの部屋出て行くわよ」 「だから!!ちがうって…!」 「あからさまなオフィスラブ禁止ー」 「なんだよオフィスラブって!!」 「いいわねー…幸せそうで」 「なんでぇ?」 「…………いいの、幸せ満喫してなさい」 ティファは静かに部屋を出ていった。 帰り際に、とどめの一言を残して。 「昨日の夜、ヴィンセントがユフィの部屋にいたのは秘密にしておくわね」 『!!』 なんだか、大きな誤解を生んでしまったような…。 「あれ、ひょっとして、ゴカイされた?」 「…だろうな」 ──彼女からもらったカイロはもう冷たくなっていたが、何故だか捨てるに惜しかった。 某所に贈ったのです。でなきゃヴィンユフィなんて書かないっての。難しいもん! ヴィンの一人称などというとんでもないものに挑戦、玉砕!(ぅわぁい) 結構長い間更新せずに放置していたので、こんなんのせてみましょうか、と。 友人にボロクソつっこまれて、しばらく小説書けなくなったのも今となってはよき思い出(ホントかい)。 贈ったものと同じではあんまりなので、削りまくっています。 完全版が見たい方は下のバナーをクリック。 戻る |